え?通った?

 

黒砂公民館、昔、おとなしい先輩が、受付のおじさんにブチギレられていたことや、笹尾くんが、隣の公園に落ちていた段ボールをかじっていたことなど、これといって特にいい思い出がなく、正直あまり好きな場所ではないのだが、つべこべ言っても仕方がないので、身支度を済ませ、家を出る。

 

 

刺すような日差しが、降り注ぐ。籠のない自転車を漕ぎながら、あの頃とは少し違う街並みに思いを馳せる。ワケのわからないzozoの建物ができ、定食屋が潰れまくり、ピエロは更地になって、でもなぜか甘太郎は生き残り、歩道橋はいつのまにか消えていた。こうやって知らぬ間に、いろんなことを忘れていくのだろう。あそこの角のミニストップを右に曲がれば、あと少し。ひたいの汗をぬぐいながら、軋むペダルに力を込める。晴れ渡る文月の青い空が、まっすぐな一本道を照らしていた。

 

 

少し早めに着き、受付のお姉さんに、そこそこのデカイ声で挨拶をし、2階の講習室に向かう。この部屋は抜群に日当たりがいい。良い部分はそれだけだ。案の定まだ誰もおらず、椅子を並べながら一人待っていると、ポツリポツリと集まってくるワクマンの面々たち。誰もかれもが「暑い」「遠い」と無言の文句を顔に浮かばせながら、靴をスリッパに履き替えて部屋に入ってくる。ただ一人天然記念物のチバメグだけは爽やかな笑顔で土足入室。汗が引き、上がった息が整ったタイミングでゆるりと合奏を開始する。遠い日。Dmセブンスの憂いを帯びた鈍い響きが部屋の温度を少し下げる。

 

 

30分後くらいに、遅れて小松くんがやってくる。なに一つ悪びれる様子もなく、ただでさえ、ふてぶてしいベンチャー顔が、よりいっそふてぶてしく憎たらしく映る、「この成金が」と後ろから頭をドツき回したくなる。

*どつきまわす:意味 鞭や細い棒で強く叩くこと。多く、どつきまわしたろか! どつきまわすぞコラ!などのようにハッタリの脅し文句で用いられることが多い。

 

 

小松くんをどつきまわし、asianの合奏を始める。フィジカルがものをいうゴリパワ編曲、嫌いじゃない。と思っていると、休憩中に、ぱっちょが、星コンを弾き始める。どうやら次の定演のメイン曲で星コンを弾くらしい。トチ狂ったか。もはや細胞の奥まで染み込んだ因縁のメロディを聞くと、眠っていた俺の闘争本能に火がついた、、、などということは全くなく、普通にただただ懐かしく、それでいて、ちょっぴり苦い味がした。星コンに比べれば、asianなどまだ可愛いものである。あの時は、なんであんなにも一生懸命になれたのだろう。今思えば、不思議で仕方がない。定演終わりに、糞をしながらひとしれず流した涙は、忘れようとしても忘れられない。いやいや、めちゃくちゃ定演聞くのが楽しみになってきたな。というか俺が、振ろうか??

 

 

最後は星コン、ではなく星降りを練習。人数が少なかったが、前後半に分けて、叩きで通す。細かいところを言えばキリがないが、なんとか通る。途中で、関戸くんが2時間遅刻してやってくる。もしかしてこいつは、我々とは別の時間軸で生きているのか??言葉を失い、唖然としていると、なぜか15時にはっせーの目覚ましタイマーが鳴り、混沌はよりいっそ深くなっていく。15時に来ることもわからないし、15時に起きようとしていたこともわからない、吹き出す面々を傍らに、「本当にこの団体は大丈夫なのだろうか」と眉間に指を当てる筆者であった。

 

 

初演という難しさ、つまり正解やお手本がない中、少しずつ少しずつ曲が形になっていく。天才作曲家たちは、シャレた机でコーヒーでも飲みながら、popなメローを作っているのかもしれないが、自分の場合、何一つとして、バエル作業工程はなく、段ボールを蹴りながら、酒を流し込みながら、本を漁りながら、何も思い浮かばす「もういっそのこと俺を殺してくれ」とひたすらに苦行に身を投じるのが作曲である。はたから見ればただの変人、キ○ガイであろうが、苦痛の、その先にある「誰かが演奏してくれるかも」「誰かが喜んでくれるかも、楽しんでくれるかも」という、なんの科学的根拠もない、比喩的に言えば「光のようなもの」が見えているから、ブツブツとひとり文句を言いながら、なんだかんだいつも最後まで曲を書いてしまう。要するにあの光が本当の魔法なんだよなぁ〜〜????あん?黙れ小松。どつきまわすぞ!

 

 

私情ダダ漏れワケワカメの挿入句を挟み込み、場面は一気に帰り道へ。と、その前に、時間が少し余ったので、最後にみんなで、ブンブン数取りゲーム(昔流行っためちゃイケのやつ)をやり、少しだけ盛り上がる。コロちゃんがまた流行ってきているし、本番までそんなに時間もないしで、色々と不安は尽きないが、まぁ呑気にやっていこうと思う。帰り道、なんとなく余裕があって、空を見上げると、とても綺麗で、柄にもなく思わず写真を撮る。パシャり。

 

 

 

おわり。