ワクワクを終えて

 

 

薄い朝靄が広がる、誰もいない閑散とした街並み。ひんやりとした気持ちの良い秋の風が吹き抜けていく。左手で、顎の無精髭をさすり、「さすがにちょっと疲れたな」と独り言を呟いた。耳の奥で、まだかすかに響き続けているホールの音が、今にもアスファルトに転げ落ちそうなボロボロの身体を、すんでのところで支えていた。

 

 

第一回ワクワクコンサートが終演した。まずは、御来場頂いた皆さん、参加してくれた団員たちに、心から感謝を伝えたい。本当にありがとうございました。胃もたれと、吐き気でめちゃくちゃ気持ち悪いのだが、今回の演奏会をゆっくり振り返ってみようと思う。

 

 

台風が直撃し、演奏会を中止することも想定していたのだが、日頃の行いが良かったのか、奇跡的に天候が回復する。検見川浜の駅前は、かなりオシャレでモダンな作りになっており、 RPGだったら絶対に何かイベントが起きそうな橋を渡って会場に向かう。この前に蘇我駅の近くの公民館で進行の読み合わせと、確認練習を行なった。団員たちは、若干疲れ気味ではあったが、調子は良さそうであった。休憩時間に近くのスーパにハッセーとバナナを買いに行く。バナナを食べると演奏の音が大きくなる気がしていて、いつも演奏会前にバナナを食べるようにしている。

 

 

 

当日の演奏を振り返ると、Asianはほぼミスらしいミスがなく、練習が確実に結果につながった堅実な演奏だったと思う。終盤、テーマのアーフタクトがバッチリ決まった時は感動してしまった。遠い日は、関戸と、しゅうたがバッチリ決めるところを決めてくれたおかげで、練習以上の出来栄えになったと思う。特にルバート部分の関戸は、薬でもキメてんのかというくらいの、神がかった演奏だった。さらにバッキングの奏者と、指揮者の息もバッチリと決まって、しつこいくらいになんどもなんども練習した甲斐があった。

 

 

 

ただ、何と言っても一番びっくりしたのは、ホールの音響である。開演直前の確認練で、すぐに気づいたのだが、響きがありえないくらいに良かった。ドラセロが響くホールというのはいくつか経験があったが、ドリンとギターがあそこまで飛ぶホールは初めてだった。舌バカ耳バカ、方向音痴の小松くんですら、「なんだこのホール!」と言っていたことからも、相当な音響の良さだったことがうかがえる。

 

現役の人たちに失礼なので、どことは言わないが、「杜の青葉、第二楽章、駅から遠い場所」と比べると天と地の差であり、改めて、ホール選びの重要性を認識した。舞台裏のスタッフや、受付の方も、腰が低い常識のある大人の方ばかりで、大変気持ちよく、演奏に臨むことができた。僕は、かなり現役の頃から当該ホールに対して不信感を持っており(理不尽に怒鳴られたことが要因となっている)、今回ワクワクのホール選びに関しては、演奏人数に対する面積比、ホール構造、録音環境などを徹底的にリサーチし、最終的には、ホールに直接一人で行って決めた。今思えば、個人プレイが甚だしいが、怒りと憎しみゆえの行動なので、どうか大目に見ていただきたい。

 

 

さて、話を戻そう。第二部は、アンサンブルステージとなっており、狙ったわけではないが少し大人びた雰囲気がどの曲にもあった。初っ端の夜光は、珍しいセロギターの2重奏曲であり、前日の通し練では、一番仕上がっているチームだった。両楽器を合わせるとちょうど100万くらいになっていそうなので、僕は陰で勝手に「重課金チーム」と呼んでいたのだが、まぁ二人とも、お世辞抜きで本当に上手かった。しゅうたは言わずもがなとして、エガミさんは、「プレーチェなんて私には無理だ」と謙遜するが、相当高い技術を持っているのではないかと思っており、特にこの曲ではピッキングからのトレモロが、惚れ惚れするほど上手であった。この調子で、夭逝の天才チェロマスター Yasunari batabataを超えていって欲しいですね。

 

二曲めの花の葬列は、かなり難易度が高いフィジカルを前面に押し出した、まさにゴリラ曲であった。それを弾くのがポッキー二人なので、かなり心配していたのだが、他のどのチームよりも熱心に取り組んでいた印象がある。特におにぎりくんは、カルト宗教じみた異常な執着ぶりをこの曲に見せており、あの二人が、公民館で練習を始めると、いつもその場が一気に黒魔術の儀式会場と化していた。マジでウルセェよ!と毎回思っていたのだが、レクイエムの哀しいメロディが個人的にかなり好きで、密かに楽しんでもいた。マンドリンを全く知らない僕の弟も、一番好きな曲に、この曲を挙げていた。こしまは、この曲で本当にやりきったのか、飲み会では、ほろ酔いを半分飲んで、深い眠りについていた。心から満足していそうなとても安らかな寝顔であった。きっと夢の中でも関戸と二人で演奏しているのだろう。

 

 

三曲目のScreenは、一夜漬けの付け焼き刃の割には、それなりの演奏になって安心した。いやー上手くなったなぁとは前々から思ってはいましたが、一緒に演奏すると、しゅうたの異次元ぶりが良くわかりますね。彼が弾いている楽器は本当にギターなのか? もう本当に勘弁してほしい。もはやギターの技術では到底追いつけそうにないので、「彼が弾けないギターの曲」を作って、張り合っていこうと思います。

 

 

4曲目の拙作yove letterは、間違えなく本番で化けた曲だった。ペイさんは、僕が細かいことを何も言ってないのに、抑揚が自然と「失恋経験者のそれ」になっており、まるで、「男だって時には女々しくなるよな」と、言ってくれているようだった。テーマのメロディはありきたりだが、和声進行が、少しトリッキーな曲になっており、モーダルインターチェンジを軸とした戻り転調が曲中に三回も登場する。敗残者の、浮き沈みがある不安定な心情を表現するために意図的に捻った箇所であり、頭の中で描いていた音楽が割と忠実に再現できたと感じている。まぁそんなマニアックなことは、誰も気づかないだろうと思っていたのだが、たけちゃんさんは、この点に関してかなり詳細に感心して、褒めてくれた。初見で調性感の分析をあそこまでできるのは、本当にオタク。マジでメガネ。分析もほどほどに、はよ入団してくれ。エガミさんとトミーさん、しこたま酒を飲ませて、早急に彼を囲い込んでください。あと、ハンザワボーイも。

 

 

三部の星降りは、細かいミスはあるものの、ホールに助けられたのもあるが、想像以上に綺麗に響いたなという印象がある。あと、最も合わせるのに苦労した第二楽章後半から〜再現部分が、バチくそに決まって、大げさだが、ワクマンが一つになったのを感じた。団員の皆さん、丸本末広etcのメイン曲がやりたかっただろうに、こんなワケわからん曲をここまで練習してくれて本当にありがとうございました。これで、来年は、心残りなく旅立つことができそうです。アンコールの、重課金フルパワーカントリーロードはもう出来が異次元でしたね。

 

 

卒演とかも忙しいだろうに、参加してくれた現役のいっちーパッちょとか、楽器をレンタルしてまで演奏してくれた千葉めぐとか、リサイクルショップでドラを買った小松とか、社会人一年目で土日休みじゃないのに参加してくれた斎藤さんも、滋賀から参加してくれたO川も(飲み会で彼の足がかなり臭かった)、圧倒的な実力で陰ながら団体を支えてくれた43期のお二人も、台風の中、見に来てくれたみなさんにも、まだまだ言い足りないことはあるが、本当にありがとうございました。あ、あとハッセーも!(星降りのソリめっちゃよかったよ)。

 

 

 

台風予報は嘘のように、穏やかな空が、帰り道を見守っていた。演奏も進行も、想像以上に上手くいきすぎたので、夢オチ、交通事故オチだけは勘弁してほしいなと思いつつ、おにぎりの家で、12時から、4人で酒を飲む。こしま、大川が途中で脱落し、おぼろげな目で関戸と二人で朝までチビチビと日本酒を飲み続けた。思えば、ワクマンを作るきっかけになった場所もこの部屋だった。6年間、幾度となくここで酒を飲み、数え切れないほどの無駄話を重ねた。この部屋には、いたるところに、言葉が積み重なっている。来年、ワクマンをどうするか、少し話し合い、日が昇って来たところで、部屋を後にする。

 

 

 

演奏会というのは、いつもそうで、終わってから、楽しかったことに気がつく。そして、ゆっくりと思い出の隙間が埋まっていく。ちょっと寂しくもなるが、いつだってそれが、次の演奏会への原動力になる。

 

 

 

 

また来年もやれたらいいなぁ〜。そんなことを思いながら、クタクタになったワクワクTシャツを洗濯カゴに入れた。

 

 

 

おわり。

 



 

 

演奏会アンケートのURLがパンフにあるので、御来場頂いた方は、回答いただけますと幸いです