いつまでも音楽は鳴り続ける

 

今日は台風の影響で、練習参加者が少なく、なんとも運の悪い日であった。1時間待っても、斎藤さんしか来ず、二人でアンサンブルの練習をするという、斎藤さんにとっては地獄のような時間を過ごさせてしまった。なんか申し訳ないなと思いながら、案外、斎藤さんと合わせるのは初めてであり、楽しかった。やっぱり彼女はなまらうまいですね。北海道を舐めんなよ!(何がやねん、なんも言ってへんやろがい)

 

 

おにぎり🍙は、案の定、1時間遅れてやってきて、バカみたいに入念なウォーミングアップを終えた後、ブツブツと文句を言いながら、腰回りくん(なんかエロい)と、アンサンブルの練習を始めた。知る人ぞ知る、この似た者コンビのアンサンブルは文句を言っている割には中々仕上がっており、正直驚いた。本番、緊張で失敗してまえ!ズンドコベロンチョ!と洋楽家に先祖代々伝わる必殺の呪いをかけながら、二人の後ろ姿を見ていると、なんだか、いつぞやのスプリングの練習をしている時みたいな、そんな懐かしい風景が頭の中で重なっていた。いい歳こいて、無邪気に笑い合いながら、楽器を弾く二人の姿を見ていると、気のせいか、生暖かい春の空気を感じた。

 

 

途中で合流した、現役組とともに、簡単に合奏練を行う。時計ばかり気にしている自分に気づいて、あぁ俺今もしかしてちょっと焦ってるのか?と思った。いや、鬼のポーカーフェイスの異名を持つ俺としたことが、そんなバカな。そう言い聞かせたが、部屋の扇風機を消し忘れて家を飛び出してきたこと、さらに傘も忘れたことに気づき、普通に、やっぱり少し焦っているのだと思った。パンツの相性が良くなく、ムズムズしていたのだが、指揮者が、ポジを直すわけにもいかず、スラーを意識して欲しいなどとホザきながら、落ち着けと自分に言い聞かせた。

 

 

帰りは雨が上がっており、おにぎりと二人でガザルに行く。現役の時は、普通におかわりをしていたはずなのに、二人とも、半分で限界に達して、老いの残酷さを実感した。きてくれるお客さんの話になり、たくさん見にきてくれ!でもやっぱりそんな来ないでくれ!などと矛盾するセリフを吐きながら、もはや雑巾にしか見えないナンをチマチマとちぎり口に放り込んで行く。お客さんの中で一番びっくりしたのが、脱北ねぇさん(この名前を言って、伝わる人はほとんどいないだろう)だった。脱北ねぇさんといえば、僕にギターの基礎を丁寧に教えてくれた、まさに女神というべき存在で、大変お世話になった大先輩である。後輩への接し方が、上手で、僕はそれを見本にして、腰回りくんを育てた(偉そうにいうな!)。もうナン年も会っておらず、正直、どこで何をしているのかも分からない。ただ、こんなバカみたいな名前のコンサートに来てくれるぐらいだから、きっと元気なのだろう。

 

 

 

脱北ねぇさんに限らず、もうしばらく会っていない人が、演奏を見にきてくれるのは非常に嬉しいものである。たとえ、サークルを辞めても、楽器から手を引いても、その人の心の奥のどこかで、音楽は鳴り続けているのだと思う。そういった、いわゆる中間ゾーンの人にこそ、聞いて欲しい演奏会である。そして、「あなたの音楽はまだ鳴り止んでませんよ」、と伝えたい。そんな、願望や、理想を頭の中で描きながら、おにぎりと、社会人になった奴らの服装が明らかに学生の時より良いものになっていることを、例えば、修太がサークルの時によく着ていた緑のモコモコジャンパーなどを思い出し、大笑いして、口からナンが飛び出す。汚ねぇ!すいません!

 

 

 

次に、奏者たちは、それぞれ、何を思って参加してくれているのだろうかという話になった。正直、僕は人間心理の天才なので、各々のモチベーションの違いは、手に取るように、分かってしまっているのだが、じゃあなんで、参加してくれたのかと聞かれると、途端に、返答に困ってしまう。飲み会?練習?人?なんとなく? 色々あると思うのだが、その理由はなんでも良いと思っている。それに無理にやる気を出さず、ちょうど良い距離感で自由にやってくれて良いと思っている。なぜなら、なんとなく、そっちの方が、長く続きそうな気がするからである。まぁ僕は、アホなので、短命上等で最初から、スーパーサイヤ人4でいかせてもらいますが(ネタが古いねん。呪術回線とか、アーニャで例えろよ)。「俺は今回、良い感じに、めっちゃ淡々と練習できているんだよね、なんか不思議なほどトゥーとこれている」とおにぎりが呟いた。トゥーってなんやねんベッキーかよ。

 

 

 

 

ヌリケシみたいになった、ナンをどうにか平らげ、吐きそうになりながら、店の外に出る。二度と来るか!と思いながら、もう本当にしばらく来ないことになるだろうと、言い残し、自転車にまたがる。吐きそうになっているおにぎりに、手を振り、ペダルに力をこめる。

 

「いつまでも音楽は鳴り続けている、心のどこかで、、、」か。まぁ確かに、本当にそうなのかもしれないな。。。と思いながら、ゆらりゆらりとアパートに帰る。

 

 

 

 

おわり。